B-plus Webマガジン取材記事
経営者インタビュー

プロフィール 兵庫県出身。学生時代は文武両道、勉学とラグビーに励む。特に数学は、模試試験で全国1位になるほどで、理系の能力を活かしシステムエンジニアとして約3年間会社に勤める。その後、父が代表だった(有)宮坂鉄工を継ぎ2代目に就任。主な事業内容であった大型の建築金物鉄工から、デザイン性の高い製造に方向転換し、売り上げアップにつなげる。現在は、スタッフ増強と宮坂ブランドの商品化などに注力している。

「同業他社と同じことをやっても意味がない」。そう語るのは、有限会社宮坂鉄工の宮坂和秀代表取締役だ。昭和から続く昔ながらの鉄工所を父から引き継ぎ、時代の流れを機敏に汲み取り顧客のニーズを把握。宮坂鉄工ならではのデザイン性に富んだ建築金物の製造に注力している。会社を支えるベテラン職人たちは、新たな事業方針に最初のうちは戸惑ったという。それを乗り越えた、宮坂社長の鉄工ビジネスへの斬新な取り組みに迫った。

 

システムエンジニアから宮坂鉄工2代目に

 

タージン 本日は兵庫県尼崎市にある有限会社宮坂鉄工さんにお邪魔しています。建築金物の製造などを行っている2階建て工場の佇まいは、昔ながらの鉄工所のイメージそのものですね。どこか懐かしく、古き良き時代の威厳すら感じられ、完成度の高い映画の美術セットのようでもあります。

宮坂 先代である父の時代から利用している工場なので、それなりの年季は入っていると思います(笑)。2011年頃に私が2代目に就任し、工場はそのままの状態で引き継いだんですよ。

タージン なるほど。宮坂社長は、社会人一歩目から宮坂鉄工さんにお勤めに?

宮坂 いいえ。もともとはシステムエンジニアとして、約3年間、会社勤めをしていました。やりがいは感じていたものの、エンドユーザーの顔が見えない場合も多く、実態の見えにくい業務体制に疑問を感じ始めまして。考え抜いた末、思い切って家業を継ぐ決意に至りました。

タージン まったくの異業種からのご転身だったのですね。不安もいろいろあったと想像できます。お父様と一緒に働いた期間はあったのですか。

宮坂 ええ。父とは2年ほど一緒に働きました。しかし、突然他界してしまいまして・・・。右も左もわからない状態で会社を継ぐことになり、事態の急変に対応するだけでも四苦八苦していたのを思い出します。私も当時は20代で、わからないことだらけでした。しかし、全責任をとる立場になって、人生が変わったんです。徹夜は、当たり前でしたね。四六時中仕事をしていました(笑)。

 

時代の流れに合わせて事業内容を方向転換

タージン それは大変なご経験をされましたね。事業承継した後のお話も、ぜひお聞かせください。

宮坂 はい。私が代表になってから、事業内容を方向転換させまして。先代の頃は、大型の建築用鉄骨やエレベーターなど、大きな鉄骨を使った建築金物の製造がメインでした。しかし、私の代になってからはデザイン性の高い建築金物の受注に注力しています。

タージン それはおもしろいですね。時代の流れに合わせ顧客ニーズを把握し、宮坂鉄工さんならではの付加価値を付けて製造する方向に、シフト変更したわけですか。

宮坂 そのとおりです。他社との差別化を熟考して、デザイン面を重視するに至りました。

タージン 実は、そちらに置いてあるモダンでおしゃれな階段が、先ほどから気になっていまして。それも、宮坂鉄工さんの製作ですよね。むき出しの鉄工が階段の存在感をスタイリッシュに際立てていて、美術館などアート関連の施設に設置されていそうです。

宮坂 ありがとうございます! この階段は、私が尊敬している、ある先生がデザイン設計された階段です。アイアン分野において、日本で一番有名な先生で、日本中のVIPな豪邸、美術館など、多岐にわたって携わっておられます。ありがたいことに製作依頼があり、弊社にて製作させていただきました。私は、先生の弟子です。弊社の仕事の進め方には2通りあり、今回のように設計士様など外部から持ち込まれたデザインを形づくる場合と、弊社で一からデザインを提案する場合があります。つくってほしい物の写真、本などを見せていただければ、何でもつくれますよ。

タージン 外部からの委託製造のお仕事も、デザインや製造技術のノウハウとして蓄積されていくので、会社の成長にはプラスに作用しますよね。

宮坂 そうですね、ご縁がありまして、有名な設計士様、優良工務店様、おしゃれなデザイナー様とお仕事をさせていただいております。本にも製作品が掲載されたこともありますし、弊社がTVに出演したこともあります。おかげさまで、先代の時代と比べて利益率が格段に良くなったので、経営状態も上向きになりました。やはり、他社と差別化していくことの大切さを実感しましたね。

タージン 宮坂社長の仕事の積み重ねで多くの会社と信頼関係を築けたからこそ、経営も上向きになったのでしょうね。しかし、システムエンジニアから鉄工という異業種への転職で、困ったことなどはありませんでしたか。

宮坂 代表引き継ぎ時は苦労したものの、現場の仕事には意外と自然に入り込めました。実は私は昔から数学だけは突出して得意で、模試試験で全国1位になったこともあるんです。そんな理数系の能力を、鉄工製造や建築関係の仕事では活用できます。それと、学生時代はラグビーにも励んでいました。汗を流す体力仕事も好きなんですよね(笑)。

 

建築士からの特注をこなして売り上げアップ

タージン 宮坂社長の理数系の能力は、具体的にはどのようにお仕事で役立っていますか。

宮坂 例えば、CADやパソコンの活用ですね。これらは、先代が経営していた頃との違いでもあります。こういった機器を使用することで、より正確な製造に取り組めるようになりました。

タージン 前職がシステムエンジニアですから、お手のものですね! 先代の時代にはどのように対応されていたのでしょう。

宮坂 依頼が入ると原寸大の大きさで手書きし、原寸大でお客様に説明するのが当たり前だったそうです。私も、初めて聞いたときは驚きました。

タージン 大型鉄工を手がけていたとの話でしたから、その手書きは大変だ。アナログ時代ならではの貴重な逸話ですよ。ところで現在は、宮坂鉄工さんにはどのようなスタッフさんが在籍しているのですか。

宮坂 職人スタッフは、どんな仕事でも任せられるベテラン勢なので、いつも頼りにさせてもらっています。

タージン ちなみに、宮坂社長による事業方針の転換に、スタッフさんたちも柔軟に対応してくれたんでしょうか。

宮坂 最初は、私が打ち出した方向転換に戸惑い、対応することに大変苦労していたようです。でも、次第に理解を示してくれたので安心しましたし、助かりました。職人スタッフの洗練された技術力は、弊社の大きな強みです。こだわりのある建築士様などからの受注にも、きめ細い対応ができますよ。

タージン 特注品をさばける職人スタッフがいるからこそ、宮坂鉄工さんならではの仕事を遂行し、売り上げアップにつながる。最高の循環ですね! さらに、建築金物の製造における「設計・製造・設置」まで、すべてをワンストップで取り組める体制も、大きなアピールポイントだと感じます。

 

女性も大歓迎、宮坂ブランドを育てていく

タージン 昨今は人手不足が社会問題にもなっていますよね。宮坂鉄工さんではどんな人に来てほしいとお考えですか。

宮坂 真面目でものづくりの好きな人に来てもらいたいですね。仕事の中でいろんな場所に行けますし、注文住宅の階段、手摺、門扉など一生残るものをつくれますので、意外と楽しいと思います。現在在籍しているスタッフはベテランなので、私より若い世代、20代~30代くらいで、私たちと一緒に仕事をしたいという意欲がある方に来てもらいたいですね。弊社には、転勤がありませんし、ご結婚されて家庭をお持ちの方や、腰を据えてじっくり仕事に取り組みたい方には最適の職場ですよ! 私が会社員のときは、何とか転勤を避けながら働いていたものです(笑)。

タージン クリエイティブかつお客さんに感謝されるお仕事なので、やりがいもたくさんあると思います。工事現場の監督さんなども女性進出が目覚ましいですよね。鉄工関係はどうでしょう?

宮坂 今のところ、同業種で女性の職人さんを見たことがないので、実際の人数も少ないと思います。もし根性があれば(笑)、女性の方々にも、お気軽に問い合わせていただければ嬉しいです。もちろん腕力などが必要な部分は、男性スタッフでフルサポートします。われわれ男性には難しい女性ならではの視点と感性を活かしてもらえれば、男女それぞれの仕事の相乗効果が出て、おもしろいのではないかと思いますね。

タージン いわゆる鉄工女子ですね! 今の若い人たちは、仕事があまり続かないなどとも言われがちです。しかし、宮坂鉄工さんみたいな会社で、汗をかきながらクリエイティブな仕事の喜びを見出せれば、当人たちにもプラスだし、社会貢献にもつながるのではないでしょうか。

宮坂 おっしゃるとおりです。この仕事のやりがいは、お客様の笑顔に直接触れ合えることと、つくった物が残ること。弊社が手がけている鉄工金物のデザインは、人に幸福感を与える力があると信じています。これからも一人でも多くの方に仕事を通して幸せを届けられるように精進し続け、いつかは商品化も実現したいですね! デザインで人生を豊かに、幸せにすることが、私のモットー。日々、勉強です。

タージン 唯一無二となる宮坂ブランドの創造ですね。素晴らしい展望です。宮坂社長は、もともと数学が得意なうえに、ラガーマン出身。いわば、知力と体力の両方をしっかりと備えた方です。そこに、さらに誠実さも加わって、現在の宮坂鉄工さんを構築されてきたのだと思います。先代から会社の看板を引き継いでいる一方、時代の変化に合わせながら柔軟に仕事内容もシフトさせ、会社の付加価値を培っているのがお見事です。私も応援していますので、兵庫県尼崎市から日本全国、そして世界へと発信できるよう頑張ってください!

 

仕事を楽しむ」とは‥
仕事は人生そのものです。費やす時間も長いからこそ、ポジティブな考え方でいることが大切だと思います。そうすれば、自然と楽しめますよ。(宮坂和秀)